Gamvieno( ゜八゜)ノBlog
ヴァナ・ディールを仄かに暖める、髭が魅力のガンビーノが綴る物語・・・
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2005年 04月 18日
いつもの店のいつもの席、酒を呷り体が温まったところで、おもむろに鞄から布の包みを
出す。 酒が入っていても、この作業は慎重に行う。布で包まれているのは、自分の生活の糧を 生んでくれる商売道具なのだから。その中には、店内の蝋燭の光を受けてくすんだ色を 放つ、銀製の小さな竪琴が入っている。 周りに聞こえないように、小さな音で調弦を行う。もっとも、ガヤガヤと騒がしい店内で 多少の音を出しても別に問題ないのだが、準備段階を人にじっと見られるのも嫌な気が する。 ポロン。全弦で和音を作る。その音に、店内の雑踏は音を立てるのをやめ、店内の 人たちが一斉にこちらに注目した。マクシィは眼を閉じると、竪琴で旋律を奏でながら いつもの歌を歌い始めた。 その曲は、戦場へ恋人を送り出した恋人の安否を、一人待つ女性の思いを詩にした ものだった。送り出した恋人の後姿を思い出し、月日が経っても帰ってこないその 思い人を待つ女性の、切ない物語だ。 マクシィは両親を知らない。育ててくれた養父母に幼い頃に預けられたのだった。 エルヴァーンの自分とヒュームの養父母という状況は、物心ついた頃には「自分は両親に 捨てられた」という事を、強く感じさせるには十分だった。養父母には一人の息子がいたが、 二人に分け隔てなく愛情を注いでくれる養父母に、最初は自分の内に閉じこもりがちだった マクシィも、徐々に打ち解けていった。 マクシィは、彼のことをお兄ちゃんと呼んで、いつも町の中や森の中で仲良く遊んでいた。 「俺は大きくなったら、戦士になっておかあさんとおとうさんを守るんだ。」 彼はそう言うと、辺りで拾った木の枝を構えて、森の木を相手に剣術の真似をしていた。 マクシィは歌を歌うのが好きで、そんな彼を傍らで見ながら、養父母が歌ってくれる 子守唄を歌ったりして過ごした。そんなマクシィに、養父母は竪琴をプレゼントした。息子が 剣術の技を会得していくのと同様に、竪琴の練習を一生懸命して、家族に披露するほどの 腕前となっていた。 その息子が国の兵士となり、遠征すると決まったその夜、家族との食事を終えた後で、 マクシィはお兄ちゃんが颯爽と敵を倒す姿を歌った、新しい曲を披露した。話が盛り上がり、 家族は楽しい一夜を過ごした。 息子の安否を気遣いながらも、帰ってくると信じていた家族達の願いは、帰還した 遠征軍に息子の姿が無い事がわかった瞬間、足元から崩れ落ちていった。 日々殺伐としていく家の中の雰囲気に、マクシィは家を出る決心をした。必ず帰ってくると 信じて待つ養父母の目が、マクシィには痛かった。考えなくてもいい事を考えてしまいそう だったからだ。 歌い終えると、店内のあちこちから拍手が来る。マクシィもそれに応えて、椅子から立ち 上がり頭を下げた。 しかし、マクシィは納得していなかった。あの時、悲しみのうちに作ったこの曲も、今は 時間が経っているせいか、心のそこから湧き上がる感情と共に歌うことができないでいる からだ。お兄ちゃんを待つ感情は今も変わっていないが、何のために歌っているかを 見失っているようにも思えた。聞いてくれる人が居てこその歌であり、こうしてこの店に来る 客に歌っているが、マクシィには“手ごたえ”のようなものが欠けていた。 歌には、魔法の様な効果を与えるものもある。こうやって稼いだお金で楽譜を購入し、 それなりに研究してきたが、聞かせる相手がいない。新しい歌を作ろうにも、町の中に 居ては心を動かされるような出来事が乏しいのも事実だ。外の世界での出来事を経験し、 様々な場所でいろいろな人と触れ合いながら、歌を歌いたいとマクシィは感じていた。 きっと、楽しい事もあるに違いない。 人を癒したいと思うのと同様に、自分も癒されたいのだと気づくのには、まだ時間がかかり そうだ。
by gamvieno
| 2005-04-18 10:47
| 小説 『Freaks戦記』
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