Gamvieno( ゜八゜)ノBlog
ヴァナ・ディールを仄かに暖める、髭が魅力のガンビーノが綴る物語・・・
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2005年 11月 26日
あちこちに獣人の亡骸が転がっているのに、その死臭があまり強く感じられないのは、
ここの空気が奥へ奥へと流れ込んでいるからだった。松明が行くべき道を指し示して いるかのように、異変の核心へ棚引いている。 それが、自分達に仕掛けられた罠のようにも感じられたが、エクシードは構わずに進んで いく。先導していたシャンティの隣に並んで、主のいなくなった獣人の拠点を捜索していく。 先程までは、それほど危険では無いだろうとの判断から彼女を先行させていたが、この 惨状を目の当たりにしては警戒せざるを得ない。 倒れているヤグードがいつ起き上がってきてもいいように、エクシードは周囲に細心の 注意を払う。 独自の生活様式を持ち、魔法をも自在に操る獣人ヤグード族。中には、人間の言葉を 理解し使いこなす者もいる。そんな彼らが影響を受け錯乱し、味方同士で殺し合いをした 結果がこの惨状だ。彼らをこれほどまでに狂わせる存在とは、果たして何なのだろうと エクシードは考えていた。自分達がそこへ近づいて、取り込まれることはないのだろうか。 ヤグードが影響を受けたと見られる広場を過ぎても、自分達人間にはまだ影響が出て いないところを見ると、ヤグードが持っている魔物の部分に作用しているからなのかも しれない。 とそのとき、隣を歩いていたシャンティが突然立ち止まり、険しい表情で前方の通路を 見据えていた。 エクシードは武器を確かめるように強く握り締めると、彼女の視線を追った。すると、 行く手の通路の途中に、なにやら動く物体がある。こちらがヤグードだと確認すると同時に、 そのヤグードもこちらを見つけた。 「ギャギャギャアアアアアアアアアアア!」 歓喜の声にも聞こえる奇声を発しながら、ヤグードは手に持った両手持ち用の棍棒で 殴りかかってきた。 とっさに両手鎌で受け止めると、そのヤグードの姿が地面に投げ出した松明の光で、 下方から照らされ浮かび上がった。体中をどす黒い血で覆われ、あちこちに深い傷がある。 傷から血が滴り落ちても全く気にすることなく、すさまじい力で何度も棍棒を打ち付けて きた。エクシードは冷静に、鎌の柄でそれらを受け止める。 ヤグードは、エクシードの鎌を力任せにはじくと、後方へ飛び退いて距離を取った。 棍棒を構えて再び殴りかかってきたのを見て、攻撃に転じようとエクシードが大きく振り かぶると、振り出された鎌の切っ先をかすめて、エクシードの頭上を高く飛び越えた。 後方で魔法の詠唱を準備していたニース達は、その空からの奇襲に対応していなかった。 まずい、と思った瞬間、小竜が鋭い爪をヤグードの右目に突き立てた。 「グギャァアアア!」 棍棒を左右に振り払い、ナナヤの攻撃を交わして降りてくるヤグードを、ファイナは鋭く 槍で突いた。 脇腹を突かれ、重力に任せて落ちてくるヤグード。地面に叩きつけられたところを、 シャンティが致命傷となる一撃を胸に加えた。返り血を浴びた剣を振り払うのと同時に、 ヤグードは力ない声で語りかけてきた。 「我トシタコトガ、コウモ簡単ニ取リ込マレテシマウトハ情ケナイ・・・。シカシ、コレモマタ 運命。人間達ヨ、ソナタラモオイオイ、取リ込マレナイヨウニスルノダナ・・・。」 そういい残すと、両目から血と涙を流しながら息絶えた。その表情からは、悔しさや憤りも 感じられた。 エクシードは、彼の持っていた棍棒を近くに突き立てると、墓標代わりとして彼に哀悼の 念を送った。 「さあ、いくぞ。」 気分が滅入っている仲間達に声をかけ、エクシードは地面で燃えていた松明を拾って 奥へと進んでいった。通路の先はさらに狭くなっていて、周囲も一段と暗く、太陽の光は ほとんど入り込んでいない。吹き込む風がさらに強くなってきていた。松明の炎が、風に 煽られて時折強く燃え盛る。奥へと続く路地の行く手が、少し明るんで見えた。エクシード 達は、いよいよこの異変の核心へと近づきつつあった。少し頭痛がするが、高鳴る心臓の 拍動と緊張感で体中が満たされていて、どれがどの痛みなのかそれぞれを区別できなく なっていた。
by gamvieno
| 2005-11-26 12:27
| 小説 『Freaks戦記Ⅱ』
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