Gamvieno( ゜八゜)ノBlog
ヴァナ・ディールを仄かに暖める、髭が魅力のガンビーノが綴る物語・・・
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2005年 09月 29日
どこからか、部屋の中に入ってくる涼しげな風。小鳥のさえずりが遠くから聞こえ、木の
枝が風に揺れて音を立てる。こんなに心地よく目覚められるのは、いつ以来のことだろう。 薄明かりが差し込む部屋の中で、ニースはゆっくりと目を開けた。ジュノでの目覚めに 聞こえてきたわずらわしい喧騒も、大自然に包まれているウィンダスでは、遠い過去の 記憶のように感じられた。長旅の後で疲れて眠った次の朝には、どこかしら痛みが残って いたりしているものだが、今日は体が軽い。生きているという実感が体中から沸いてくる のを感じて、すこし低血圧気味な体を起こしてカーテンと窓を開け、部屋の中に太陽の光と 外気を取り込んだ。 昨日の夜は、ささやかな歓迎の宴が催された。長旅で疲れているだろうとの配慮から、 豪勢な歓待を受けなかったのが、逆にニースにはありがたかった。すぐ近くに迫っている 異変の中で、自分達のために気を使わせるのが申し訳なかったし、なにより生活習慣の 違った土地で落ち着かないというのが、率直な気持ちだった。 久しぶりに再会した祖母の隣に座り、酒の勢いそのままにこれまでの苦労を話すコマ。 帰郷して安心したのか、普段より饒舌に語り合うエカトニスとファイナ。ワシプとシャンティ は、いつのまにか手伝う側に回っていて、料理や酒を運んでいる。エクシードはその光景を 見ては、時折笑みを浮かべつつ酒を飲んでいた。 エクシードは変わった。バストゥークの祖母の診療所から、傷が癒える前に出て行こうと していた彼の、あの余裕の無い、焦燥感に苛まれた表情を思い浮かばせて、今の彼と 見比べた。それからの冒険での彼の表情は、時を重ねるごとに、仲間達と死線を越える 度に確実に変わっていった。ターゲットを狙う暗殺者のような目が、今は表情豊かな輝きを 持っている。ニースはその変化を嬉しく感じる一方で、嫉妬にも似た感情を持っていた。 彼が徐々に他人に対して心を開いているのを身近に感じて、自分は彼の為に何かして あげられて来たのか、これから何をしてあげられるのか。これから迎えるであろう大きな 苦難に対して、さらに不安を募らせた。 しばらく窓の外を眺めていると、何か大きなものが空気を切る音が規則正しく聞こえて くる。耳を澄ますと、その音と一緒に誰かの息遣いが聞こえた。ニースは急いで着替える と、部屋を出て音の主のいる庭へ向かった。 庭へ出ると、普段は背中に背負われている両手持ちの剣を持って、素振りをしている エクシードがいた。気づかれないように足音を立てないで近づいたつもりだったが、 エクシードは素振りを止めて振り向いた。 「ん、ニースか、おはよう。もしかして起こしてしまったのなら、すまなかったな。」 「おはよう。そうじゃなくて、起きたら音が聞こえてきたから、もしかしたらエクさんじゃないか と思って。」 いつも重厚な鎧の下に来ている上着を着て、首筋や腕の表面の汗が朝日に照らされて 光っていた。ふぅっと一息つくと、エクシードは左手で剣を持ち、右手で額の汗を拭った。 庭の木に両手剣を立てかけると、近くの川へ歩いて行って顔を洗った。ニースは、部屋から 持ってきた手ぬぐいをエクシードに手渡した。ありがとう、と手ぬぐいを受け取ると、 エクシードは川原に座って水と汗を拭き取っていく。ニースもその隣に座った。 「いつもの武器じゃなくて、今朝は両手剣の練習をしていたの?」 「ああ。今度の敵は、今までとは違った戦い方が必要になるかもしれないから、練習をして たんだよ。」 こんな風に自然に話せるのが、ニースには嬉しかった。自分勝手に行動しては、衝突して いたバストゥークでの旅に比べると、仲間達との連携を考えて戦う今のエクシードは、とても 頼りがいがある。今もこうして、次の戦いに備えて剣の練習をしている。今日よりも明日を 考えるエクシードを見て、ニースも彼にこの変化を与えたということに、自信を持ってみよう かなと思った。それに、彼の変化の度合いには及ばないが、今までの旅で自分も少な からず成長して来て、魔法を連続で唱えても、精神的な疲労が少なくなった実感がある。 「さてと、そろそろ戻るぞ、ニース。」 そういって立ち上がり、家へと戻るエクシードの背中から、ニースはより大きな信頼感を 受け取った。
by gamvieno
| 2005-09-29 12:14
| 小説 『Freaks戦記Ⅱ』
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