Gamvieno( ゜八゜)ノBlog
ヴァナ・ディールを仄かに暖める、髭が魅力のガンビーノが綴る物語・・・
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2005年 04月 21日
ウィンダス・森の区の競売前は、幾多の冒険者達で溢れかえっていた。森の木々や土の
においが心地よい他の場所とは違い、人が密集するために暑苦しく人いきれもひどい。 魔法使いや詩人の為の巻物や楽譜、また合成ギルドが多い国もあってか、素材なども 多く売り買いされている。その人ごみの後ろで、チックリィは飛び跳ねたり左右へ動いたり して、人の間に入り込もうとしていた。 何とか掻き分けて、競売所の窓口にたどり着いた。出品されている道具を物色し、魔法の かかった杖を見つけた。早速競売を始めて、何とか予算内で購入することができた。商品を 受け取ると、競売所の正面にある、岩肌がむき出しの壁に非難した。ふぅ、っと一息ついて 座り、かばんを取り出して荷物の整理を始めた。 かばんの中には、食料やら野営の道具やら、はたまた街の人に頼まれた道具などが 溢れかえっていた。 街の外に出てモンスターを倒し、その戦利品の中で素材として売れるものは、競売や 店などに引き取ってもらって金銭と交換する。また、そのほかの収入源としては、街の 住人からのお願いごとを受け、アイテム等を届けて収入を得たりする。 かばんを整理して、チックリィはため息をついた。この地を離れて冒険するには、まだ 所持金が足らない。 そのほかの装備品をそろえるには、まだ時間がかかりそうだった。 かばんを見ていた視線を競売所の方に向けると、どこかで見覚えのあるエルヴァーンに 眼が留まった。ああ、そうだ。いつもの居酒屋で、竪琴を披露していた吟遊詩人だった。 競売所で購入したのだろう、手には小ぶりで扱いやすそうなナイフを持っていた。 店ですれ違ったことは何度かあるが、軽く会釈する程度で会話はしたことが無かった。 チックリィは、彼女がどうしてナイフなんかかったのだろうかと、気になってきた。 意を決して、チックリィは彼女に声を掛けてみた。 「こんにちは。私の事覚えていらっしゃいますか?」 すると彼女は、人ごみに押された衣服を直して、笑顔で話した。 「こんにちは。ええ、覚えてますよ。いつも私の近くの席で、演奏を聞いてくれてましたね。」 「はい。あなたの竪琴で聞くあの詩は、私の宝物なんです。」 うれしそうに話すチックリィに、エルヴァーンは人を避けるために壁際にチックリィを 誘導した。 「私の名前は、マクシィといいます。これから、他の国を巡る旅に出ようかと思ってるん です。」 「そうなんですか。私はチックリィです。ナイフを買われていたのは、それでだったん ですね。」 マクシィの声は、詩を歌っている詩人らしく、凛として張りがある涼やかな声だ。会話して いても、きれいな発音に周りの人が目を止めるほどだ。チックリィは、彼女と会話している ことが嬉しくなった。 しかし、旅に出てしまうと聞いて、ここでの楽しみがなくなってしまうのが寂しかった。 「もし・・・。」 口ごもるチックリィに、マクシィはどうしたんだろう、と様子をうかがった。 「もし良かったら、一緒に・・・旅をしてもいいですか?」 その言葉を聴いて、マクシィは一際笑顔を見せた。うれしそうに右手を差し出した。 「ありがとう。こちらこそよろしくお願いします。」 チックリィは嬉しさの余り、涙がでそうになったのを必死でこらえた。一杯に手を伸ばして 握手した。 しばらくして競売を後にした二人の鼓動を、その小さな握手は互いに伝えていた。
by gamvieno
| 2005-04-21 11:04
| 小説 『Freaks戦記』
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