Gamvieno( ゜八゜)ノBlog
ヴァナ・ディールを仄かに暖める、髭が魅力のガンビーノが綴る物語・・・
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2005年 04月 14日
「じゃあ、行ってくるからな。ちょくちょく顔を出すから。」
「いってらっしゃい、あなた。くれぐれも気をつけてくださいね。」 「パパー、がんばってねー。世界一の戦士になってねー。」 「おう。いい子でお母さんの言うことを良く聞くんだぞ。」 普通、冒険に出る夫を見送る妻としては、旅先の心配や今後の生活の不安などを考える のだろうが、この人の場合は大丈夫だろうという、根拠の無い安心を感じずにはいられ なかった。 戦士になると言い出す前の月まで、マサトは鉱山夫として働いていたのだが、数多くの 事故が発生する職場にあっても、彼のもって生まれた“運”は周囲の仲間にも一目を 置かれていた。つい先日も、ツェールン鉱山で起こった大きな落盤の時、事故現場に一番 近かったのにも関わらず、かすり傷ひとつなく生還してきた。 バストゥークは辺境の都市であるが、今日まで栄えて来られたのは、その周囲にある 山々から採掘される鉱物資源に寄るところが大きい。未だ豊富に取れるそれらを取る 鉱山夫は、この町では安定した収入を得る事ができる。その仕事を捨ててまで、冒険に 出ると言ったマサトに、妻も最初は戸惑いを見せた。 「皆が俺のことを知るような、世界一の戦士になってやるぞ。」 娘が一番気に入っている絵本というのが、戦士が冒険し、やがて一国の主となる物語 だった。それを読んで寝かしつけると、娘は幸せそうにベッドで寝息を立てる。最初は 戦士になることに興味は無かったのだが、町を行き交う冒険者、それも戦士を見るとつい 足を止めて、その行き先を見ている自分がいた。楽しそうな事には首を突っ込みたくなる 性分が、背中からマサトを押す感覚に襲われたとき、マサトは戦士になろうと思った。 蓄えていた資金を使い、装備をそろえた。鉱山夫として鍛え上げられた肉体には、背中に 背負われた大きな両手斧が似合っていた。大きく開けられた胸元には、強そうで張りの ある筋肉が躍動している。 行き交う元同僚に声援を受けると、少し照れくさそうに追っ払う。 「がんばれよ。大戦士マサトになって帰ってくるのを、みんな期待してるぜ。」 「かあちゃん泣かせるなよ。でも、マサトだったら大丈夫だろうけどなぁ。」 鉱山区の出口まで来て、マサトは深呼吸をした。いつもの砂っぽい風景と火薬の臭いが する。旅に出るといっても、しばらくは町周辺にいる事になるだろう。すぐにまた、この “嗅ぎ慣れた”臭いの中に戻ってくるだろうが、その時には、鉱山夫ではなく戦士として ここに立っている自分を想像した。これから経験する幾多の戦闘に怯むことなく、無事 帰ってくることを胸に秘め、マサトは鉱山区を後にした。太陽の光を浴び、背中に背負った 両手斧が反射した。薄暗いアーチの中で、これから出発する戦士を祝福しているようにも 見えたが、当の本人はそれに気づくことなく、町の外へとズンズンと進んでいった。
by gamvieno
| 2005-04-14 10:46
| 小説 『Freaks戦記』
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